2026年1月22日、全豪オープンで世界ランキング17位の大坂なおみ選手が、2回戦で同41位のソラナ・チルステア選手と対戦しました。試合は6―3、4―6、6―2で大坂が勝利し、3回戦進出を決めましたが、大坂なおみ選手が試合中に何度も「カモン!」と声を出し、それが対戦相手のチルステア選手との間で騒動になりました。
試合中に何度もイラ立った声で審判に抗議していたチルステア。試合後のネット越しのあいさつでも不穏なムードが漂った。 軽く握手を交わすだけで目線を合わせないチルステアに違和感を感じた大坂。首をすくめながら話しかけると、チルステアは強い口調で「あなたはフェアプレーとは何かを知らないのよ…こんなに長くプレーしてきたのに、フェアプレーとは何かも分からないなんて!」などと大坂に言葉を投げかけた。そのやりとりは、中継カメラが一部始終を捉えていた。 (1/22:スポニチアネックス)
ニュースでは様々な疑問も出ていましたが、ジュニアの現場にいる我々としては、ルールとしてどうなの?という点と、ジュニアの試合ではどう考えたらいいか?というところにフォーカスしてみたいと思います。
国際ルールは?
テニスの試合には、国際テニス連盟(ITF)が定める国際ルールがあります。
シングルスでもダブルスでも、このルールがそのまま使われます。因みにジュニアの全国大会や公認大会でも、基本的にはこのルールをベースに運用されています。
テニスのルールで特に関係するのは、妨害(Hindrance)に関する点です。
これは、ポイント進行中に相手のプレーを不当に妨げてはいけない、という考え方で、具体的にはこんな場面が想定されます。
- 相手のサーブの準備中に声を出す
- ラリー中にわざと音や声で揺さぶる
- ボールが相手コートに飛んでいるのに大きな声を出す
こうした行為は、「ポイントが進行している途中」に相手の集中を切ってしまうため、ルール違反や注意の対象になります(これは国際プロでもジュニアでも同じ考え方です)
この基準はやや抽象的でもありますので、プロでもジュニアでも、相手方が不満に感じたら抗議、という側面もあります。最近の潮流で言うとハラスメントの解釈に近いか、、
中には相手方を揺さぶるために言う選手もいますね。
今回の「カモン!」はどのタイミングだった?
今回ニュースになっていた場面は、厳密にはこういう状況でした:
- チルステア選手のファーストサーブがネット
- ポイントが終わった直後
- セカンドサーブを打つ前の「Between Points(ポイント間)」
このタイミングで大坂選手が「カモン!」と声を出していますので、ルール上は、ポイントが終われば選手の声出し自体は妨害には当たりません。
主審が「サーブを打つ前なので問題はない」と判断したのは、まさにこの部分に基づいたものです。
つまり、ルール上は反則ではないということになります。
世の反応もどちらかというとこの解釈が主流です。
因みに、日本でのニュースはどうしても切り取りですので、現地報道にも目を向けると良いでしょう。
Sorana Cîrstea, reacție acidă la conferința de presă după eliminarea de la Australian Open: „E cel mai important lucru care s-a întâmplat azi?”
上記要約
「アドレナリンに満ちた試合だった」
ソラナ・クルステアは、アドレナリンに満ちた一戦で全豪オープンでの歩みに終止符を打った。記者会見では、コート上で感じたことについて次のように語っている。
「とても難しい試合でした。第1セットは良い入り方ができて、チャンスもありましたが、それを生かせませんでした。このレベルでは、流れは本当に一瞬で変わってしまいます。
第2セット、特に終盤の自分のプレーのレベルにはとても満足していますが、長い中断が入り、リズムを完全に崩されてしまいました。ファイナルセットの終盤では、やるべきことができず、彼女の方が良い締めくくりをし、結果的に私よりも良いプレーをしました」と、ルーマニアの選手は振り返った。
ネット際のやり取りについて
試合終了後に起きた言葉の応酬、つまり日本人選手にフェアプレー精神の欠如を指摘した件について質問されると、ソラナは次のように答えた。
「いいえ、問題はありません。ただの会話でした。大したことではありませんし、この試合の後に話すべきことだとも思いません。良い試合でしたし、終盤は彼女の方が上でした。彼女は勝利に値しました。それ以上言うことはありません」
16勝18敗、これがソラナ・クルステアの全豪オープンにおける通算成績である。
ソラナ・クルステアはネット際の場面について語ることを拒否
「引退の瞬間は人それぞれです。私は、今年が最後の年だと発表することを選びました。美しいキャリアでしたし、ツアーに入ってから20年になります。テニスが私に与えてくれたすべてのものに感謝しています。そして、私は大会ごとに、自分なりの形で別れを告げたいと思っています。今年は感情に満ちた一年になるでしょう」
同じ場面について2度目の質問を受けると、彼女はきっぱりとこう述べた。
「申し訳ありませんが、この件については話しません。これは私にとって最後の全豪オープンです。20年間プレーしてきました。ナオミと交わした5秒間の会話以上に、大切な意味を持つ大会なのです」
「それが今日一番大事なことですか?」
その後も質問が続き、試合後にナオミと話をしたのかと聞かれると、クルステアはやや辛辣にこう返した。
「それが今日起きた一番大事なことですか? ドラマなんて何もありません。もし話したとしても、それは私たちの間だけのことです。繰り返しますが、私にとっては全豪オープンでの最後の試合でした。その事実を大切にしたいのです
メルボルンでの思い出
記者は話題を変え、メルボルンでの最も美しい思い出について質問した。
「ここにはたくさんの素敵な思い出があります。私はいつもここでプレーするのが好きでした。テニスを愛していますし、こんなに長くプレーできるとは思っていませんでした。これほど長いキャリアを築けたことに感謝しています。
今は少し悔しさもあります。もっと良くできた部分があったと感じているからです。でも、勝てるのは一人だけ。終盤、彼女は私よりも良いプレーをしました。私はオーストラリアにとても感謝しています。14歳のとき、ジュニアで初めてここに来ました。そのときの素晴らしい思い出は、一生私の中に残るでしょう」
引退を決意した一年への想い
英語での質疑応答の最後は、今年経験するであろう感情についての質問だった。
「試合の終盤、ここでの最後の試合だと思うと、少し感情的になったかもしれません。簡単なことではありませんが、喜びと情熱をもって向き合っています。何事も永遠ではありませんし、良いタイミングで立ち止まることも大切です。今も良いプレーができていて、ランキング上位にいますが、それでも引退は正しい決断だと思っています。テニスの後にも人生はあります。
感情的ではありますが、最後には良い思い出が残るものです」
と、感極まりながら語った。
「反則じゃない」けど、気持ちは揺れるもの
ここがちょっと大事なところです。
テニスのルールでは問題なくとも、ルールと「気持ちの感じ方」は別で、特にジュニアではよりセンシティブな領域です。
試合中に何度も声が届くと、相手にはプレッシャーとして感じられることがあります。
プロ同士の試合ならば、普段からこういう声出しも珍しくありませんが、ジュニアの試合では同じように受け止められないこともあります。
ジュニアの子どもたちは、大人よりも感情の処理や集中のコントロールが未熟なことが多いです。
審判がつかない草大会や部内戦でも、同じような行為がきっかけでトラブルになることは、非常によくあり、これがジュニアテニスの評判に繋がることもあります。
ここで大切なのは、
「ルール上セーフだからOK」
ではなくて、
その場面でどんな振る舞いが一番良いのか、親やコーチが指導するという視点でしょう。
国際ルールとジュニアの現場での扱いの違い
国際ルール(ITFルール)は、基本的に大人のプロからジュニアまで同じように適用されます。
でも、ジュニアの現場では下記の特性があり、ルール以上の配慮がよく求められます。
- 審判がいないことが多い
- 相手選手の心の受け止め方は十人十色
- 保護者やコーチが同じ空間で観戦していて、大人が介入しうる
- 特に小学生は精神的にセンシティブ。テニスが嫌いになることも。
たとえばポイント間であっても、相手のミス直後に大きく声を出すことで、相手が気持ちを切り替えにくくなることがあります。そして小学生ですから、無意識のうちに少し攻撃的になってしまい、相手の威嚇に繋がる言い方になってしまったり。これを受けた相手方がペースを乱して負けてしまうと、大人が介入して、、というネガティブなループになります。
元世界ランク1位のM・ナブラチロワもファーストとセカンドの間に声を発した点について、言葉を選びながら苦言を呈しています。
ジュニアでも配慮してきたい点でしょう。
ルール違反ではなくても、勝つために人を傷つけ、間接的に自分も傷つくこともあります。
ジュニアだからこそ大切にしたいこと
テニスは、ルールを守るスポーツでもありますが、同時に人と人がコートを挟んで戦うスポーツでもあります。
ジュニアテニスで伝統的に強調されるフェアプレーを問われたとき、ルールを守ることは当然ですが、相手を思いやることも同じくらい大切でしょう。
今回の件で大坂選手が試合後に「怒らせてしまってごめんなさい」と話したのは、謝る必要があるかという議論もありますが、ルールの話とは別の、人としての距離感を大切にする姿勢でしょう。
ジュニアの試合では、声を出すこと自体は悪いことではありませんが、相手の集中や気持ちを考えたうえで、どう振る舞うかを自分で考え、整えていく視点を持つことが必要でしょう。
まとめ
- ルール上、ポイント間の声出しは反則ではない
- 相手に向けた挑発と受け取られる言動は避けたい
- ジュニアの現場では、配慮や気持ちの受け止め方、考える姿勢が重要
ジュニアの試合は、勝ち負けだけではなく、謙虚さや思いやりといった人としての育ちが同時に育つ場でもあります。
やや綺麗ごとになってしまっている感がありますが、強くなり狭いコミュニティで注目されるようになってくると、どうせなら周囲から応援される選手になった方が良いでしょう。悪評は残念ながら早く回る業界ですから、少なくとも考える姿勢は必要かなと自戒しています。


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