ジュニアスポーツでは、練習ではあんなに良いプレーをしているのに、試合になると急に動きが硬くなる。
普段ならミスしないような場面で簡単に崩れてしまう局面が多く見られます。
テニスでは選抜、全日本、小学生大会の3大大会都県予選が終わったタイミングですが、今年も色々なドラマがあったようです。これはテニスに限らず、サッカーでも野球でも、どの競技でも共通して見られる現象です。
多くの親がここでお子様のメンタルに課題があることに気づきますが、子供たちは決してメンタルが先天的に弱いわけではなく、単純に本番で力を出す準備が整っていないだけ、というケースがほとんどです。
問題の本質は、子供のうちはメンタルの強さ・弱さというよりも、再現性にあります。
緊張してもいつも通りのプレーができるかどうか。
環境が変わっても、自分のプレーを再現できるかどうか。
これに加え、幼児や小学生特有の要因を踏まえて考えると、メンタル強化の方向性がかなりクリアになります。
なぜ子供は試合で緊張するのか
まず大前提として、緊張は悪いものではありません。
むしろ、本気で取り組んでいるからこそ起きる、ごく自然な反応です。
実際、スポーツ心理の研究でも、試合前や試合中に強い不安や緊張を感じることはパフォーマンス不安と呼ばれ、子供の競技スポーツにおいても広く確認されています。これは単なる気持ちの問題ではなく、体と脳がセットで反応している状態です。
例えば、人前でプレーする状況になると、脳の中では「危険」や「評価される状況」を察知する働きが起こります。
このとき中心的な役割を果たすのが「扁桃体」と呼ばれる部位で、不安や恐怖に強く関わっています。
扁桃体が反応すると、体は一気に戦闘モードに入ります。
心拍数が上がる
筋肉が硬くなる
呼吸が浅くなる
こういった変化はすべて、交感神経が活性化した結果です。
これは本来、危険から身を守るための正常な反応ですが、スポーツの場面ではこれがプレーの精度を下げる方向に働いてしまいます。
さらに重要なのが、「ホルモンの変化」です。
ストレスを感じると、体内ではコルチゾールというホルモンが分泌されます。
これはエネルギーを高めたり集中力を一時的に上げたりする役割もありますが、過剰になると逆に判断力や注意力を低下させることが分かっています。
つまり、緊張とは単なる気持ちではなく、 脳(扁桃体)、 神経(交感神経)、 ホルモン(コルチゾール)が連動して起こる「全身の反応」です。だからこそ、「緊張するな」と言っても意味がないわけです。
では、子供たちは何に対してここまで強い反応を起こしているのでしょうか。
研究でも指摘されている通り、ジュニアのパフォーマンス不安は「人に見られること」や「評価されること」に強く影響されます。
つまり、単純に勝ち負けだけではなく、負けたらどう思われるか、ミスしたらどう評価されるか
こういった社会的なプレッシャー」が脳を刺激しています。
特にジュニア期で強く影響するのが、親の存在です。
親に良いところを見せたい。
期待に応えたい。
がっかりさせたくない。
この気持ち自体は自然ですが、強くなりすぎると、脳はそれを失敗できない状況と認識します。
その結果、体は防御モードに入り、プレーは安全志向になります。
いわゆる縮こまるという状態です。
さらにもう一つ、子供特有の要因があります。
それは、脳の発達段階です。
子供やジュニア期の選手は、大人に比べて感情をコントロールする前頭前野の働きがまだ発達途中です。
一方で、不安や恐怖に反応する扁桃体は比較的強く働きます。
このバランスの影響で、ジュニアは 不安を感じやすく、 それをコントロールしにくい状態になりやすいことが分かっています。
つまり、緊張しやすいのは「弱いから」ではなく、発達的に自然な状態とも言えます。
子供の緊張は、人に見られる状況による脳の反応、ストレスホルモンの分泌、発達途中の脳のバランスなどの要素が重なって起きています。
だからこそ重要なのは、緊張をなくすことではなく、緊張してもプレーできる再現性を確保し、集中して時にはプラスの力に変えうる視点に切り替えることです。
ここを理解しているかどうかで、メンタルへのアプローチは大きく変わってきます。
練習と試合をつなぐ再現性
よく練習ではできているのに試合でできないという話を聞きますが、これは技術の問題ではありません。
むしろ、環境や感情が変わったときに同じプレーを出せない、つまり再現性の問題です。
練習ではリラックスして打てているボールも、試合になると腕が振れなくなる。
普段は判断できている場面でも、試合では迷いが出る。
こうした変化は、すべて再現性の低さから来ています。
通常が100とすると、試合で100出せる選手はごくごく少数。70や80の力を出せるかどうかというところで、時には50になってしまうこともあります。元々150の力をもっていても半分になってしまえば100の選手が70や80の力を出してくればいい勝負になりますし、100の力を出し切れば負けてしまいます。
このように、強い選手は特別なプレーができる人ではなく、いつも通りのプレーを出し続けられる人です。
多少の緊張やプレッシャーがあっても、大きく崩れない。
相手のプレッシャーをついて、自分が相対的に優位に立てる。これこそがメンタルの強さの正体です。
メンタルを強くするために親ができること
では、実際にどうやって再現性を高めていくか。
特別なメンタルトレーニングが必要かというと、必ずしもそうではありません。
むしろ日々の関わり方や環境づくりの影響が圧倒的に大きいです。
まず一つ目に意識したいのが、親のために頑張る状態をできるだけ減らすことです。
子供、特に小学生の多くは無意識に、親の期待を背負っています。
それ自体は悪いことではありませんが、それが強くなりすぎると、失敗が怖くなります。
ミスをしたときに怒られるかもしれない、がっかりされるかもしれない、と感じる状態では思い切ったプレーはできません。
実際に変化を感じたのは、試合後の声かけを変えたときでした。
結果についてあまり触れず、プレーの内容や取り組み方にフォーカスするようにすると、次第に試合中の表情が変わってきます。
子供が自分のためにただ楽しんでプレーしていると感じられる状態を作ることが、結果的にメンタルの安定につながります。
経験が動じないメンタルを作る
次に重要なのが、経験の積み方です。
人は未知の環境に弱いです。
初めての大会、初めての会場、格上との対戦、観客の多さ。こうした要素が重なると、それだけで緊張は大きくなります。
ただ、面白いことに、大舞台を日常的に経験すると次は少し楽になります。
近場で喋るのが好きな方、特にそれを仕事としている方を思い浮かべてください。
彼らは経験が慣れや自信に繋がり、相対的に人よりもできると自分でも認識しています。
これは毎日の積み重ねで、それ以外の方にも部分的に適用できます。
例えば、子供の初めてのスポ人やJOP、初優勝まで緊張しませんでしたか?
実際、関東や全日本などをかけた試合を転戦した後であれば、緊張することは通常ありません。
また、上記3大大会も将来観客がたくさんいる場で大きな試合に出ることを考えたら、また緊張する対象にはならないでしょう。このように、より大きな経験を重ねると、緊張するハードルは下がっていきます。
つまり、メンタルは経験によって作られていくものです。
そのため、あえて少しレベルの高い大会に出る、上のカテゴリーに挑戦する、遠征や合宿に参加するなど、普段と違う環境に触れる機会を意識的に増やすことが重要です。
もちろん最初はうまくいかないことも多いですが、その経験自体が後の安定につながっていきます。
自信は成功体験から生まれる
よく自信を持てと言われますが、自信は言葉で作れるものではありません。
外からいくら声をかけても、本人の中に根拠がなければ、不安は消えないからです。
やはり必要なのは、実際にできたという成功体験です。
強い相手からポイントを取れた、苦しい場面をしのげた、接戦を勝ち切れた。
こうした小さな成功の積み重ねが、またできるかもしれないという感覚を生みます。
この「できるかもしれない」という感覚は、心理学では自己効力感(セルフ・エフィカシー)と呼ばれています。
これはアメリカの心理学者バンデューラが提唱した概念で、自分はこの状況でもうまくやれるという見通しのようなものです。
研究でも、この自己効力感が高いほど、プレッシャーのかかる場面でもパフォーマンスが安定しやすいことが分かっています。逆に、同じ実力があっても「できるイメージ」が持てないと、試合では一気に崩れてしまうことがあります。
さらに興味深いのは、これは脳の仕組みとも関係している点です。
成功体験をすると、脳内ではドーパミンという神経伝達物質が分泌されます。
このドーパミンは「報酬」や「学習」に関わる働きを持っていて、「この行動はうまくいった」という記憶を強く残します。
つまり、成功体験は単なる気持ちの問題ではなく、脳に「できたパターン」を刻み込む作業とも言えます。
そしてこの記憶が積み重なることで、試合中の判断やプレーに迷いが少なくなっていきます。
ここで大切なのは、その成功をしっかり認識させることです。
子供自身は意外とできたことよりも、ミスや負けた場面の方を強く覚えていることが多いです。
そのままにしておくと、「できなかった経験」ばかりが積み上がってしまいます。
だからこそ、「あの場面よく耐えたね」「前より粘れているね」といった形で言語化してあげることが重要になります。
こうした声かけによって、子供の中で曖昧だった成功がはっきりと認識され、「できた経験」として定着していきます。
心理学的にも、成功体験は“認知されて初めて効果を持つ”とされており、このプロセスは非常に重要です。
この積み重ねが、「自分はできる」という感覚を少しずつ強くしていきます。
そして結果的に、試合中の安心感につながり、多少の緊張があってもプレーが大きく崩れない状態を作っていきます。
評価の軸を「外」から「内」へ
もう一つ大きなポイントが、評価の軸です。
ジュニアは想像以上に周囲を見ています。
コーチや親、他の選手やその保護者の反応を気にしながらプレーしているケースも少なくありません。
ただ、評価の基準が外にある限り、プレーは安定しません。
周りにどう思われるかを気にしている状態では、自分のプレーに集中するのが難しくなるからです。
そこで意識したいのが、評価の軸を自分の中に置くことです。
例えば、その日のテーマを決めるだけでも変わります。
サーブをしっかり振る、最後まで走り切る、粘り強くつなぐなど、結果とは別の評価軸を持つことで、試合中の意識が変わります。
これが習慣化してくると、周囲の目よりも自分のプレーに集中できるようになり、結果的に再現性も高まっていきます。
まとめ
このように、メンタル強化とは特別なトレーニングではありません。
日々の環境や関わり方、経験の積み方によって自然と作られていくものであり、環境を意識することで少しずつ変わります。
緊張はなくなりませんし、なくす必要もありません。
大切なのは、緊張した状態でも自分のプレーを出せることです。
そのためには、子供が自分のためにプレーできているかどうか。
そして、さまざまな環境の中で経験を積み、成功体験を重ねているかどうか。
この2つが非常に重要です。
再現性が高まれば、試合でのパフォーマンスは安定してきます。
そしてその積み重ねが、いわゆる「メンタルの強さ」として表れてきます。
少し視点を変えるだけで、日々の関わり方も変わってくるはずです。
参考文献
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