日本のジュニアテニスでは、比較的多くの子が小学生にして海外でテニスを体験します。
子どもがテニスを続けていると、「海外のジュニアはもっと早い段階から強いらしい」「イエローボールに切り替えるのも早いのでは?」といった噂に触れることもあります。保護者としては、その情報のどこまでが本当なのか、自分の子どもと比べてどう考えたらいいのか、判断が迷いますよね。
今回は、国際テニス連盟(ITF)の公式ルールや、各国協会の基準、そして海外アカデミーの公開情報をもとに、日本・アメリカ・ヨーロッパ・中国・韓国のジュニア育成環境を整理しました。
私自身が親として実感してきたことも織り交ぜながら、できる限り誤解のない形で、比較できる内容にまとめています。
世界共通の建前:10歳以下はイエローボールで試合をしない
まず最初に確認しておきたいのは、10歳以下でイエローボールを推奨しない見解は、世界共通だということです。
ITFは「10歳以下の競技はレッド・オレンジ・グリーンボールで行う」と明確に定めています。これは、日本テニス協会(JTA)も同じ方針を紹介しており、国内外で揃った考え方です。
つまり、海外の子どもたちが「早くからイエローボールで試合をしている」というイメージは、実際には正しくありません。
現場レベルでは、どの国でも早熟な子が9〜10歳でイエローを練習に混ぜることはありますが、試合運用については日本と同じ「10歳まではR/O/G」が基本です。
しかし!
実際にU10で海外に出ると、普通にイエローで圧倒されることが多いです。
どういうことでしょう、、掘り下げていきます。
米国:明確な進級システムと生活全体で運動量を確保する文化
米国では、USTAが「10&Under」という体系を整えており、年齢とレベルに応じてボールとコートサイズを段階的に進める仕組みがあります。
8歳以下はレッド、9〜10歳はオレンジからグリーンへ進み、11歳になるとイエローボールの大会が本格化します。
強調したいのは、「イエローを早めること」が目的ではなく、子どもの身体発達に合わせて無理なく段階を進めるという観点が徹底されている点です。
上位の子は、10歳前にイエローに触れることがありますが、昇格という制度があるため、あくまでその子の成長に合わせてゆっくり階段を上っていく仕組みになっています。
練習時間は非常に幅があります。週に数時間の“習い事”レベルから、大学テニスを見据えた層では小学生高学年〜中学生で週10〜15時間ほど運動する子もいます。
米国らしい点は、テニス以外の運動も含めてトータルでどれくらい身体を動かしているかを重視する文化が根付いていることです。
欧州:クラブ文化とアカデミー文化が共存し、二極化が進む
欧州(特にスペインやフランス)では、普段は地域クラブでのびのびテニスを楽しみ、レベルが上がってきたらアカデミーに通うという二段構えが一般的です。
公式ルールはもちろんITFに沿っており、12歳まではR/O/Gからの段階的な進行が守られています。
ただし、ハイパフォーマンスアカデミーになると、午前にテニスとフィジカル、午後にテニスか試合形式といった濃いスケジュールが組まれており、週20時間前後の練習量が珍しくありません。
日本で見えているのはこのあたりです。トップ層の経歴や、著名なスクールの練習環境に触れた際、ここに触れるため、強い印象が先行します。
地域クラブで週1〜2回のレッスンだけという子もたくさんいて、この二極化がヨーロッパの特徴です。
中国:一般層と強化層の差が極端に大きい
中国でも表向きのルールはITFに従っていますが、強化アカデミーに所属すると非常に密度の高い生活になります。
北京のテニスセンターでは、小学生でも週12〜16時間の練習を行うプログラムが用意されており、学校とアカデミーの両輪でフルタイム選手のような生活を送る子もいます。
一方で、一般のスクールは日本のクラブとよく似ており、週2〜3回の練習が中心です。育成環境の幅が広い点では、ヨーロッパ以上かもしれません。
テニスに限った話ではないですが、日本の著名なコーチが創立したクラブチームもあります。
金額も日本の選手クラスフルサービスが、週1回の金額とほぼ同等と考えたら良いです。
日本では比較的リーズナブルに素晴らしい環境が享受できると考えると良いでしょう。
韓国:学校スポーツとアカデミーの組み合わせが基本
韓国は、学校の部活動と民間アカデミーが強く結びついた文化があります。
競技志向の子は、学校の練習に加えてアカデミーにも通い、平日はほぼ毎日、週末は大会という生活を送ることが多く、週10〜15時間のレンジが中心と言われます。
ただし、韓国も日本と同じく学業との両立が大きなテーマになっており、スポーツ特化の学校に進むかどうかで練習の量と質が大きく変わります。
幼少期のテニス育成にも力を入れていて、幼少期にたくさん練習しようとする日本と似た傾向を感じます。
体も大きくて強い印象。小学校期の韓国テニス選手との試合機会は日韓両方で沢山ありますね。
年齢別・レベル別に見る「日本と海外の練習量の違い」
ここまでの内容を、年齢ごと・レベルごとに整理すると、次のような全体像になります。
年齢別の練習時間の比較
| 年齢・レベル | 日本 | 海外(米・EU・中・韓) |
|---|---|---|
| 〜10歳・習い事レベル | 週2〜4時間程度 | 週2〜4時間程度 |
| 〜10歳・競技志向 | 週6〜10時間 | 週3〜6時間(ガイドライン) |
| 11〜12歳・競技志向 | 週8〜15時間 | 週8〜15時間 |
| 中学生・上位層 | 週12〜18時間 | 週15〜20時間(アカデミー) |
こうしてみると、小学生〜中学生レベルの競技層では、日本と海外の差は、実はそれほど大きくないことが分かってきます。
一気に差が広がるのは、生活全体をテニス前提に組み替えられるアカデミー層に入ってからで、これはどの国でも例外的な環境です。
国際大会で差を感じる時、もっと練習をしているのでは?という疑念は、ある意味正しいわけです。
テニスに振り切る人生に決めた家庭はとことん突き詰めます。
イエローボールの切り替えは「世界的に見ても 9〜11歳の間」でほぼ一致
R/O/Gからイエローへの移行タイミングについても、国ごとに大きな差はありません。
日本と同じように、どの国でも
- 練習でイエローに触れ始めるのは9〜10歳
- 本格的にイエローボールの大会に出るのは11〜12歳
というラインに収まります。
地域別のイエローボール移行の目安
| 地域 | 練習でイエローを混ぜる時期 | 大会でイエローが中心になる時期 |
|---|---|---|
| 日本 | 9〜10歳 | 11〜12歳 |
| アメリカ | 9〜10歳 | 11〜12歳 |
| ヨーロッパ | 9〜10歳 | 12歳前後 |
| 中国 | 9〜10歳(強化層は早め) | 11〜12歳 |
| 韓国 | 9〜10歳 | 11〜12歳 |
世界的にも、10歳以下でのイエロー使用はルール上認められておらず、練習で少し使う程度です。
日本が遅れているという印象は、実情とは異なります。
ただ、最上位層では上記流れに沿っておらず、トップ層の試合では参考にならないといっても良いでしょう。
海外U12勢の怪我の傾向は信頼性あるデータが得られてませんが、日本で怪我が多いのは事実。
腕や手を痛めるのは、この概念に照らすと、ほら言ったでしょ、、という話になります。
グリーンであれば痛めるリスクは格段に減るので、練習機会も確保しやすくなります。
保護者として押さえておきたい軸
海外情報を調べていくと、どうしても「練習量」や「レベルの高さ」に目が行きがちです。
ただ、子どもの成長を考えるうえで大切だと考えるのは、次の三つの軸です。
① 練習量だけで判断しない
子どもの目標、体力、性格、通学時間…。
家庭ごとに状況が違う中で、ただ「増やせばいい」という発想ではうまくいきません。
海外でも、ガイドラインは幅を持たせて提示されており、子どもの状態に応じて調整することが前提になっています。
② ボールの段階は身体の成長に合わせること
イエローボールは負荷が大きく、早すぎる移行はフォームや怪我のリスクにもつながります。
R/O/Gの時期を丁寧に過ごした子ほど、後から技術的な伸びが大きいと言われます。
③ テニス以外の生活も視野に入れること
欧州や中国のアカデミーでは、寮生活やオンライン授業など、生活全体をテニスに合わせた設計がされています。
日本の一般的な通学スタイルとは前提がまったく違うため、単純な練習時間の比較だけでは判断できません。
ジュニア期の海外環境、選手との試合は経験まで
海外選手と触れ合うことは非常に良い経験となります。
実際に海外へ行くと、「環境」、「食事」、「アウェイの雰囲気」を学べます。
また、日本にいても多くの試合で海外選手と試合の機会を得られます。ここではホームでいつもの環境下で、「海外選手のプレーの特徴」、「性格」、「交流」を得ることができます。
特に日本で春と秋に実施されるATFは一度は参加されると良いでしょう。予選だけでも経験になります。
本戦に出られたらダブルスで海外選手と組むことも容易です。
海外選手を見ると焦る気持ちが湧くことがありますが、U12期に日本のテニス環境が遅れているという感覚はありません。本当にそうなったら、12歳前後で検討したら良いでしょう。
10歳以下のボールも、11〜12歳からの本格的なイエローも、練習量も、世界的に見れば「同じ帯の中」に収まっており、そこからはどこまで食い込むか、は個人のレベル、体格など心技体踏まえて、オーバーワークにならないことが寛容でしょう。
そのうえで、子ども自身がどんな未来を望んでいるのか、家族としてどこまで寄り添えるのか。
海外の数字は、その目安として使うくらいの距離感がちょうど良いのではないかと思い、まとめさせていただきます。
出典:ITF/USTA/JTA
International Tennis Federation(ITF)公式ガイド「Tennis10s – Play & Stay」
United States Tennis Association(USTA)「10 & Under Youth Tennis Progression」
Japan Tennis Association(JTA)「tennis 10s」ガイドブック


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